その偉大さに関するエピソードには事欠かず、もはや何が偉大だったのかをひと言で表現するのが難しいデューク・エリントン(Duke Ellington)ですが、生誕100周年を記念して1999年に発売された全集は、とにかく膨大な枚数でした。
1924年から1974年の50年にわたる歴史を誇るエリントン楽団の全集ですから、なんとも圧倒されるボリュームで、これを購入していれば、生涯をかけて楽しめたには違いないのですが、当時、学生だった自分には、なかなか手の出せる価格ではなかったことをうっすらと記憶しています。
さて。そんな膨大な量の録音を残したエリントン楽団にも最初の録音というものは存在するわけで、初録音は、1924年11月にワシントニアンズ(The Washingtonians)名義で吹き込まれたセッション(Blu-Discレーベル)ということになります。
ミュートの名手であるババー・マイリー(Bubber Miley)がトランペットを担当し、チャーリー・アーヴィス(Charlie Irvis)がトロンボーン、オットー・ハードウィック(Otto Hardwick)がサックス、フレッド・ガイ(Fred Guy)がバンジョー、ソニー・グリア(Sonny Greer)がドラム、デューク・エリントン(Duke Ellington)がピアノという布陣でした。（なお、バンジョーはジョージ・フランシス(George Francis)だったという説もあります）
ワシントニアンズ(The Washingtonians)名義での吹き込みは、”Choo Choo”と“Rainy Nights”の2曲。ブルースの女性歌手のアルバータ・ハンター(Alberta Hunter)とのセッションには、デューク・エリントン(Duke Ellington)とソニー・グリア(Sonny Greer)が参加し、”It’s Gonna Be A Cold, Cold Winter”と”Parlor Social De Luxe”の２曲を吹き込みました。
柴田浩一氏による名著『デューク・エリントン』では、上記の４曲のみが紹介されていますが、1924年11月のセッションとしては、他にも、Sonny and the Deacons名義の”Oh, How I Love My Darling”、Jo Trent and the Deacons名義の”Deacon Jazz”があります。
オットー・ハードウィック(Otto Hardwick)とデューク・エリントン(Duke Ellington)がフロレンス・ブリストル(Florence Bristol)の伴奏を務めた”How Come You Do Me Like You Do?”についても、この時のセッションだという記録もありますが、これについては、1925年1月に吹き込まれたという説もあり、はっきりとしません。（なお、このレコードはあまり広くは販売されておらず、ニューヨークの特定の劇場のロビーでしか販売されなかったというマニアックな品で、Blu-Disc社の子会社のUp-to-Dateレーベルから発売されました）
……と、ここまでが発売されたレコードのお話で、その前年の1923年、スノーデンのノベルティ・オーケストラ(Snowden’s Novelty Orchestra)名義でのセッションがあったことは、意外と知られていません。
1923年7月26日にVictorレーベルのテスト録音に、エルマー・スノーデン(Elmer Snowden)をリーダーとするワシントニアンズ(The Washingtonians)のメンバーが参加しており、その時に録音されたのが、”Home”でしたが、これは発売されませんでした。
この時のセッションには、アーサー・ウェツェル(Arthur Whetsel)がトランペット、オットー・ハードウィック(Otto Hardwick)がサックス、デューク・エリントン(Duke Ellington)がピアノ、エルマー・スノーデン(Elmer Snowden)がバンジョー、ソニー・グリア(Sonny Greer)がドラムという５名が参加していたようです。
その後、学業の為にワシントンに帰ったアーサー・ウェツェル(Arthur Whetsel)の代わりに、ババー・マイリー(Bubber Miley)がコルネットで参加し、トロンボーンのチャーリー・アーヴィス(Charlie Irvis)も加わった６名編成での録音が同年10月18日に行われたという話もあります。(曲目は”Home”と”M.T. Pocket Blues”の２曲)
但し、エリントン研究家のスティーブン・ラスカー(Steven Lasker)氏によると、Victorレーベルに残された台帳には、このセッションの記録が存在しなかったそうで、この10月のセッションは実際には行われなかったと結論付けても良さそうです。
