人名に”誕生日”というキーワードをつけて、Googleで検索すると、該当の人物の誕生日が表示されると気づいたのは、今年の4月くらいのことだったのですが、Googleが表示するキング・オリヴァー(King Oliver)の誕生日がどうも記憶と違ったのですよね。

”King Oliver 誕生日”の検索結果

私の認識では、キング・オリヴァー(King Oliver)の誕生日は、1885年5月11日であり、『Encyclopedia of Early Jazz』の方でもこの記念日に合わせて、キング・オリヴァー(King Oliver)関係の記事を大量にアップロードしていたのですが、Googleが1881年12月19日と言っているのは、無視できない話です。

念の為、手元にある洋書も含む数冊の資料を確認したのですが、どの書籍にもキング・オリヴァー(King Oliver)の誕生日は5月11日と記載されています。では、なぜ、Googleがキング・オリヴァー(King Oliver)の生年月日を誤解(?)しているのか?その理由は、Wikipedia にありました。

Joseph Nathan “King” Oliver (December 19, 1881 – April 10, 1938) was an American jazz cornet player and bandleader. He was particularly recognized for his playing style and his pioneering use of mutes in jazz.

https://en.wikipedia.org/wiki/King_Oliver

英語版のWikipediaには、しっかりと1881年12月19日生まれという記載があります。一方で、日本語版のWikipediaでは、1885年12月19日となっており、Wikipedia内でも記述に矛盾がある様子。

従来の説(1885年5月11日)にかわって、1881年12月19日説や1885年12月19日説が出てきている理由がなにかを調べていたら、新たに発見された根拠となる資料があるということが分かりました。

1881年12月19日説については、(これは上述の英語版Wikipediaにも記述があるのですが)キング・オリヴァー(King Oliver)の徴兵登録証が、最近になって発見されたようで、1918年9月12日にシカゴで第一次世界大戦の徴兵の為の登録が行われた際に、キング・オリヴァー(King Oliver)は、自身の生年月日を1881年12月19日と述べていたようです。

ただ、この記録自体は、他の公式記録と矛盾があるようです。

1900年の全米国勢調査の記録によるとキング・オリヴァー(King Oliver)は、1885年12月の生まれとなっており、これは日本語版Wikipediaの記述と合致します。

その20年後の1920年1月15日の国勢調査の記録では、”1920年1月時点で35歳”となっており、これを信じた場合は、キング・オリヴァーの生年が1885年ではなく1884年だったことになります。

更に、1911年9月にニューオリンズでステラ・ドミニク(Stella Dominick)と結婚した際の記録によると、当時のキング・オリヴァー(King Oliver)の年齢は26歳となっており、これが正しいと仮定すると、生年は、やはり1884年ということになります。


複数の記録によって、キング・オリヴァー(King Oliver)の生年が1884年と裏付けられる中で、先ほどの徴兵登録証の1881年生まれという証言だけが、どうしても宙に浮いてしまうわけで、古い資料を元にした検証の難しさがここにあります。

  • 1900年1月:国勢調査での情報によると1885年12月生まれ
  • 1911年9月:結婚登録時の情報によると1884年12月生まれ
  • 1918年9月:徴兵登録証の情報によると1881年12月生まれ
  • 1920年1月:国勢調査での情報によると1884年12月生まれ

キング・オリヴァー(King Oliver)は、国勢調査や結婚登録の際に、年齢に嘘をついたのでしょうか?国勢調査や結婚登録の際に嘘をつく理由は無いように思えます。

ここからは何かの資料に基づく話ではなく、私の想像になってしまうですが、嘘があるとしたら徴兵登録証の方だろうと思っています。

アメリカの徴兵制度について、1918年当時の状況を補足しますと、1917年までは徴兵登録を求められる年齢は18歳から30歳までだったのですが、アメリカの第一次世界大戦への参戦を受けて、この年齢が18歳から45歳までに拡大されています。こうした背景を考えると、徴兵登録をした者の中から実際に徴用を受ける際には若い方が優先されたのではないか、とも推測されます。

国勢調査や結婚登録の際に年齢を偽るよりも、徴兵登録の際に年齢を偽る理由の方がしっくりと来る気がするのです。


Encyclopedia of Early Jazz』のキング・オリヴァー(King Oliver)に関する記述では、Wikipediaに記載されている生年月日ではなく、上記の理由により1884年12月19日説を主張することにしております。


参考資料